石紋をつくる / Crafted Veins – Part1

     

Jesmonite®種類: AC100,

Size: 直径150mm

混ぜたもの: ミルコン、ピグメント

小さなピースから始まる、新しい石の実験。
ジェスモナイトを粘土のように使うアプローチを応用して、石紋のような表情をつくる方法を紹介します。

数百年前のヨーロッパで発展した、人工大理石を作る古典技法「スカリオーラ(Scagliola)」。その技法のアプローチをジェスモナイトLAB流に読み解き、ジェスモナイトを用いて新たな石紋をつくる実験です。

まずは材料と道具について。

使った材料

  • ジェスモナイトAC100
  • ACリターダー(硬化遅延剤)
  • ミルコン
  • ジェスモナイトピグメント・CWカラー

使った道具

  • 計量秤
  • ミキシングブレード+電動ドリル
  • カップ
  • ヘラ、コテなど数種類
  • ペーパーパレット
  • シリコン型
  • ニトリル手袋
  • サンドペーパー+電動ポリッシャー


(電動工具は無くても可)

それでは具体的な作業工程に入りましょう。

Step.1 生地の作成

ジェスモナイトAC100のリキッド90gとベース225g(1:2.5の標準配合比)、計315g。
作業時間を確保するためのACリターダー(硬化遅延剤) 2g(0.7%)も使用しています。

AC100リキッドに硬化遅延剤をあらかじめ調合し、電動ドリルとミキシングブレードでリキッドとベースを1分間ほどよく攪拌します。
ここからは時間との勝負。硬化のカウントダウンがスタートします。
40分以内の作業完了を目安にします。(諸条件で硬化時間は前後します)

本工程の要は、液状の特性をペースト〜粘土状へと変化させる点にあります。
今回の実験では「ミルコン」という増粘用のフィラーを使用します。

▼ミルコン

練りあがったジェスモナイトに、ミルコンを13g~19g(4~6%)を徐々に加えて、ヘラで良く練ります。

ミルコンは一気に投入せず、まずは少なめで混ぜてみて、生地の様子をみながら調整しましょう。 このひと手間が、自分にとって扱いやすい硬さを見つける近道になります。

生地の硬さは、仕上がり直結する非常に大事なファクターです。
目指す意匠によって最適な粘度は異なりますが、まずは少し硬めのコンディションから始めるのが扱いやすくおすすめです。生地が緩すぎると、素材同士が過度に癒着し、コントロールが難しくなります。

こちらが練り上がった生地の状態です。やわらかい粘土のような手応えで質感はややドライ、エッジの立つ『ぼそっ』とした風合い。ミルコンを約6%添加した、硬めのセッティングです。
また、作業台にはミルコンやベースを打ち粉のように散布しておくことで、不要なベタ付きを抑えられます。

なお、ヒュームドシリカやシラスバルーンなど、他のフィラーでも同様のアプローチが可能です。増粘フィラーの種類によってどのような質感の差が生まれるのか、その比較検証も今後追求したい実験テーマです。

Step.2 各生地に着色

着色作業をスムーズに進めるために、あらかじめ使用するピグメントをペーパーパレットに出しておき、ある程度調色までしておくとスムーズです。
(Step1より前に準備しておくのがお勧めです)

生地をいくつかの塊に分けて、それぞれ別々の色にしていきます。
分けた生地のうちのひとつに、ジェスモナイトピグメントを混ぜ、ヘラなどでよく混ぜ合わせます。

今回のサンプルでは、ベースとなる無着色、アクセントのオレンジとブルーの3色の生地を用意しました。
制作に入る前に、見本としたい石の写真を観察して、色の階調や配合比率の見通しを立てておく。 この事前のシミュレーションがあると迷わずに手を動かせます。

Step.3 生地の練り込み

生地を手で平らにならし、一段ずつ積み重ねていきます。

5層に重なった姿は、まるでボリュームのあるハンバーガーのよう。

重ねた生地を上から軽く押しつぶし、空気を抜きながら2回ほど折りたたみます。最後は全体をなじませるように、丸い塊へとまとめ上げました。

パカッ

カット面に現れた紋様。
青色の生地が硬めだったことで、色が混ざり合わず一部が分離し、ドライな筆致のような擦れがあります。

Step.4 生地の貼り付け

生地を5〜7mmほどの厚みにスライスし、型へと配置していきます。
スライスした断面がそのまま意匠になるため、色の重なりや石紋の流れを意識して調整しながら進めるのがコツです。

生地を配置し、丁寧に埋めていきます。重なり合う部分には空気が残りやすいため、指先やヘラで圧をかけ、空気を押し出すようにしっかりと密着させていくのがポイントです。

型が全て埋まりました。

表面をヘラで整えたら、一旦作業は完了。
ジェスモナイトが硬化するまでしばし待ちます。

石紋の現れ方は、生地の硬さや練り込みの加減、圧着の強さといった身体的な感覚に委ねられています。一つひとつの実験を身体に刻み、知見を地道に積み上げていくほかありません。

その他実験例

いくつか実験例をご紹介します。

配合と手順はそのままに、生地の硬さ(ミルコンの配合量)だけを変えて検証。すると、先ほどとは全く別の表情が浮かび上がりました。

中間色を層状に重ね、折り畳まずにそのままカットすることで、滑らかな階調を描く美しいグラデーションの断面が現れます。

色を多層的に重ねていくと、驚くほど複雑で奥深いニュアンスが顔を出します。
こちらのピンクのサンプルは、6〜7色の階調を織り交ぜることで、豊かな表情を引き出しました。

平面だけでなく、立体的な型に生地を沿わせるように貼れることも、この手法の魅力です。
立体物へ応用できる柔軟性は、新しい可能性を大きく広げそうです。

Step.5 脱型と研磨

硬化遅延剤を入れると硬化が遅いので、少し長めに置いて取り出します。
今回は作業翌日に取り出しました。

約6mmの厚みのプレートですが、強度は十分に出ています。
生地の断面を押し付けているので、最初から表面に模様が出ています。

表面を軽く研ぎ、肌合いを整えます。
一般的なテラゾのように深く削り込む必要がなく、制作の負担を軽減しつつ素材の表情をコントロールしやすいのは大きな利点です。

今回は電動ポリッシャーを使用しました。
サンドペーパーはスーパーアシレックスのレッド#150。

表面をよく見ると、細かい窪みや穴があります。
こうした不均一な凹凸が天然石に近いテクスチャを生み出し、奥行きのある表情を醸し出します。あえて埋めずに、素材のありのままを活かして仕上げるのも一つの選択肢です。

こちらは練り込み作業中にゴミが入ってしまったので、彫刻刀で削り取っています。

今回は穴や凹みなどを補修してみます。
ジェスモナイトAC100を少量練って、穴や隙間を埋めていきます。

サンドペーパーの番手は #150 → #360。

研磨工程で#1200程度まで番手を上げて丁寧に磨き上げることで、天然石を思わせる緻密な光沢と滑らかな手触りを引き出すこともできます。

完成!
(補修跡が違和感ありますが、再調整は可能そうです)

技法と歴史

今回ご紹介した「石紋をつくる」サンプルは、人工大理石の伝統技法をジェスモナイトLABが独自に紐解いて、試作・実験してみたものです。この伝統技法についてすこしご紹介します。

16世紀後半~17世紀頃、イタリアの「スカリオーラ(Scagliola)」、ドイツ語圏の「シュトックマルモ(Stuckmarmor/スタッコマーブル)」など、ヨーロッパ各地で発展した人工大理石の技法があります。最初期は、美しい大理石が非常に高価で手に入りにくかったため天然石の模造品としてスタートしましたが、長い年月のなかで職人たちが素材と対話し、研究して磨き上げてきた技は、単なる代替という役割を超えて、人間の手で自然美を再構築する素晴らしい芸術作品としてヨーロッパ中で高い評価を得てきました。

▼ストラスブール装飾芸術美術館のスカリオーラ

Photo via Wikimedia Commons / Public Domain

▼イタリア・カルピのスカリオーラは、象嵌で絵画のような超絶技法

Photo by Sailko via Wikimedia Commons (CC BY 3.0)

ジェスモナイトの母国イギリスにも多数のスカリオーラがあります。
National Trustが運営するイギリス文化遺産のオンラインデータベースで作品が見られます。
▼National Trust
https://www.nationaltrustcollections.org.uk/

しかし職人の手仕事による高価なスカリオーラは、徐々に工業化された建材に押され始め、20世紀初頭のモダニズムの到来とともに、需要が激減し、次第に知名度も下がっていきました。

現代では、歴史的建造物の修復のために伝統的なレシピの解析、また現代作家によるスカリオーラ技法を利用した再解釈なども生まれてきています。

おわりに

天然石の成り立ちをじっくり観察し、その構成を忠実に再構築する。もしくは、現実には存在しない色彩やパターンを混交させて未知の鉱物を創り出す。自然への敬意と、作り手の探求心と飛躍力。そのせめぎ合いとバランスが面白いです。

この石紋をつくる作業は、作り手の習熟度と身体感覚が不可欠で、一瞬の判断やわずかな手の動きがデザインの精度を決定づけます。量産品にはない圧倒的な個性を宿した建築意匠や家具として、大きな可能性を秘めています。

今回は第一歩となる「基礎編」です。このシリーズでは新たな技法や応用展開を継続的にレポートしていく予定です。
ジェスモナイトの粘り気をどうハンドリングするかなど、技術的な課題はまだありますが、ジェスモナイトの強度を生かした薄い立体造形物の実験にも取り組み中です。
続編にもどうぞご期待ください!

古典技法のエッセンス、その奥にある職人たちの探求心に呼応するように、ジェスモナイトで新しい表現を切り開くアーティストが誕生することを願っています。

このサンプルに関連する素材

Jesmonite® AC100: https://jesmonite.official.ec/categories/325206

AC RETARDER(硬化遅延剤)100g: https://jesmonite.official.ec/items/4541897

ミルコン 200g: https://jesmonite.official.ec/items/137703542

着色剤 - Pigments: https://jesmonite.official.ec/categories/2198196